第十二弾
いろんな立場の方々と”イバショ”について飲みながら考えてみた!
第十二弾 対談者:居場所づくりの会 代表
谷合哲行さん(千葉工業大学先進工学部 准教授)
この記事は10分で読めます。*酔っ払っていることがあります。発言の責任は問わないでください*
谷合さん:ウチら理系の社会って本当にピラミッドなんですよ。1研究室には大ボスの教授がいて、中ボスの准教授がいて、助手、助教がいて。ほとんどの学生は、ヒエラルキートップのボスが「お前これやれ」って言い渡された研究テーマをやる兵隊さんみたいな。教授の先生と会えるのは、中間発表と最終発表だけ。多くの理系の研究室はそういう縦社会なので、それこそ居場所なんていうところにはならないわけですよ。4年生で、あと卒業するだけなんだけど、退学しちゃうっていうのが一定数いるんです。研究室と合わなくて。あまりにも関係性が濃密過ぎるので。
私:うわーー辛いですねそれは!そっか、実験とかゼミってチームプレーだから関係が濃密なんですね。美大の場合は、入学するとアトリエを与えられるので、授業がない時はそこに籠もって、ひたすら1人の作業。それが私の場合は居場所になってたりしたんですけど。
谷合さん:そういう居場所は理系には全くない!1人になれる場所はほぼない!だから、馴染めない子にどう居場所を研究室の中でつくるかみたいなことも、ドクターの頃に中間管理職としてやっていたのね。最初の頃は、最低ラインを守らせようとして「来ないと卒業できないよ」と無理矢理来させるような方法をしていたこともあるんですけど、当然そればっかりじゃ効かない奴もいるし、良い研究にはならないわけですよ。では、来なくてもできるような何かやり方を考えようっていうと、「なんで来れないの?」っていうところが1つのネックになってくる。他の学生との人間関係で来れなければ、他の学生がいない時に来て実験やるか?ってこともできるし。だから、居場所ってすごく重要で。
私:そういう経験から、居場所っていうものを意識するように。
谷合さん:そうそう。本当にいられる場所。
私:私、今まで理系の大学の先生方に、この対談のお声掛けをして断られてきたんですよ。「いや、居場所なんて考えたことないから、僕と話してもつまらないよ?」って言われて。
谷合さん:でしょうね。普通はね、理系の大学の教員だったら研究室あるでしょ。学生もいて、学校の中で色んな自分の研究活動ができるでしょ。自分の研究室が自分のお城だから、やりたいことは全てそこにある。だから、理系の教員って基本的に学校出ないんですよ。そこにいるのが一番幸せなので。
私:そういうことなんですね。居場所を考える人は、それだけ居場所のなさを経験してきた人だけなんだと思うんです。
谷合さん:そうそう。自分で自分の居場所を持ってるので、わざわざ外に居場所をつくろうなんて思わないんですよ。だから、居場所についての考えとか、居場所をどうつくるとか、居場所ってどんなものっていうのは、「考えたことがないです」って言われちゃう。
私:なら、谷合さんはすごく珍しいですね。今まで「自分居場所ない」って感じた瞬間あります?
谷合さん:いっぱいある!毎日のように感じてます!僕は実験がしたい実験屋さんなのに、研究室がない!!(笑)
私:えぇーーー!!
谷合さん:卒研生を持ってないんですよ。恐らく、世の中一般の理系の大学教員が100%いるとしたら、5%くらいしかいないレアなケース。だからこういう居場所が必要で、つくってるんですけど。こんなのね、普通ありえん(笑)
私:あんまり聞いたことないですけど(笑)部屋が足りなかったとか?
谷合さん:所属の問題です。昔の国立大学って、教養部と専門部って分かれてたんですよ。千葉工大は91年の大綱化以前のこのシステムが未だに残ってて、僕は教養部の方にいるんですよ。だから、1,2年生の教養教育しかできない。卒業研究もないし、自分の研究室もない、なんとなく実験室はあるけどほぼ倉庫(笑)
私:倉庫(笑)それもあって、ここ(居場所づくりの会)を開拓したわけですか。
谷合さん:結局、ああいう状況の学内にいても、そこは自分の理想の居場所にはならないわけですよ。組織の中にいるってことは、組織が求めることをやるかやらないかみたいなところになっちゃうじゃないですか。それは、個人がやりたいこととは無関係なわけですよ。一方で、そういう組織に入らないと安定した収入は得られないし。だから、理系の世界でいくと、本当にやりたいことは仕事とは別に持ってる方が良いよっていう話もあるんですよ。
私:仕事とは別に、本当にやりたいことをやる時間を作るってことですね。
谷合さん:そう、そっちに自分の居場所を見出してる人もいるし。ここ(居場所づくりの会)にいる時が、僕にとっては一番居心地の良い居場所だし。居場所に来たくて来ている人、やりたいことを叶えるために来ている人ももちろん受け入れるんですけど、別に目的意識がないんだけど、居心地良いじゃんここって言ってもらえる方が、実は居場所としては許容性が高いと思って。居場所づくりのこの場所は、別に何をしていても良いし、何もしなくても良いわけですよ。
私:目的がなくても構わない。
谷合さん:そう。どんな人達でも受け入れられる場所ってのを確保しておく。別にやりたいことがなかったとしても、そこでやりたいことをやってる人の様子を見ているだけで、一緒に何かができてるかなって感じられる場所。包容力っていうかな、許容力だと思うんです。キャパシティって言葉になるんだけど。
私:誰が来ても拒否はしませんよっていう。
谷合さん:無理強いもしないし義務もない。それは、理系の研究室の反動だと思うんですけど。お仕事のように必ずやらなきゃいけないことがあって、縦社会のヒエラルキーがあって、それぞれがちゃんと役割を果たしなさいみたいな、そういうところにきっと、人間って居づらいんですよ。それが居心地良いと感じる人は、普通に社会に適合できるし、居場所なんて関係ないんですよ。でも、当然そうじゃない人もいて、その居心地の悪さ感みたいなものを解消するのって、ある意味自由な場所。何をしていても良いし、何もしなくても良いっていうのが多分本当に必要な居場所。そういう感じでこの場所を運営している。
私:負担感はないんですか?
谷合さん:管理運営することを考えようと思うと、ものすごいハードワークなのかもしれないけど、一人ひとりがより居心地良くいられる場所をつくるっていうのと、それぞれが本当に自分らしく生きるってのは、自分一人では絶対に思い付かないんですよ。やる気のな〜い学生ね、いっぱい研究室で見てきてね。興味関心も無い学生がやる気になるって、自分で気付いた時なんですよ。「あ、自分これしてみたい」って。それは、何をきっかけに気付くかって、こっちで予測ができないんですよ。別に僕がしゃべった内容とはぜんぜん限らなくて、本人も意識していないところで言われた話が、その人の中ではものすごい気付きになってることもあったり。だから、色んな人が色んなことに触れること、多種多様なものに触れられるっていう場所。
私:それを大切にしていると。
谷合さん:もちろん受け入れる側のキャパシティの問題もあるわけですよ。多様性を受け入れるって、実はすごく難しいことで。確かにあなたはそう感じるかもしれないけど、他の人にとってはむちゃくちゃ苦しいことなんだよっていうことも、ある意味受け入れなきゃいけないことも。
私:ありますよね。価値観もなるべく受け入れるってなると、個人と個人の対話だからなかなか難しい部分もありますね。
谷合さん:そうそう。でも、基本的に否定しない。自分にとってものすごく苦痛かもしれないんだけど、別の人にとっては、それがすごく気付きにつながって、新しい一歩に踏み出せることもあるので、こういう居場所を運営する時に、常に僕は真っ白いキャンパスでいることがすごい重要。それが結局、ここに関わった人達が色んな気付きを見付け出せる土壌になってる。
私:なかなかできる事じゃないと思います。これはもう谷合さんのお人柄なんでしょうね。
谷合さん:っていうかね、そうでないといられない奴らもいるんです。色んなものを抱えていると、居ることだけで手一杯って人もいるわけですよ。そういう人に、何かああせいこうせい言ってもどうにもならないし、そういう人もいられるような場所。それこそSDG‘sじゃないですけれど、誰一人取り残さずに、関わりたいと思ってくれる人が関われるような間口を作っておきたいんですよ。自分の側で物差しを持っちゃったり色を持っちゃったりすると、そうじゃない色を好む人にとっては、居心地の悪い場所になっちゃう。だから、押し付けるような色もあんまり出したくないし、まして僕が大学の教員でって話は出さない。今まで僕は一度も名刺を作ったことがないんで。
私:そうなんですか?
谷合さん:僕の名刺は世の中に一枚もないですよ。大学が作ってくれなかったので(笑)
私:ご自分で作らないって選択したんじゃなくて、大学が出してくれない(笑)何故!!
谷合さん:卒研も指導してないから、所属している教員じゃないんですよきっと(苦笑)学会とかも行きますし、運営そのものにも関わっているし、有名な先生達は「谷合君は便利だからおいでおいで!」って言われるんですけど、知らない人は「奴は誰??」。どこの大学かよくわかんねーけど、申し送り事項として「奴は手放すな」(笑)
私:重要な人物ってことはわかったけども、名刺貰えないから結局最後まで誰だかよくわからない(笑)
谷合さん:所属も専攻もどういう人間かも何にもわかんねーんだけど、何か困り事があったらここにメールしろ(笑)
私:便利屋さんじゃないですか(笑)それにしても、真っ白になれるってすごいと思うんですよ。私は好き嫌いの振れ幅が大きい人間だから、好きなものは好き!苦手なものは嫌!
谷合さん:芸術の人達の典型的な(笑)好きなものは大好きで24時間365日抱きしめてたいけど、嫌いなものは二度と見たくないみたいな。
私:そうそう!(笑)
谷合さん:これは僕自身の言葉なのか聞いた言葉なのかは明確にはわかんないんですけど、人間の満足度って、3つのステージがあるんだよと。1つは自己満足な世界。自分のやりたい好きなことを極めていくっていうのも、当然学んでいく過程で必要なので、これが第一段階。で、次の段階になったら、自分の周りの人の幸せまで考えましょうと。第3段階は、もうちょっと広い、直接は自分に関わりのないような人の幸せまで考えられると良いですね。これが幸せの第3ステージ。
私:周りの人の幸せを願うことが、自分の幸せにもなる。
谷合さん:これは公共性だったり共助の精神だったり、社会福祉みたいな話になってきて。で、仏様じゃないですけど、世界全体の幸せを考えるって第4ステージがあるんですけど。流石にね、僕は神様でも仏様でもないので、「世界全体の幸せを!」っていうところまで辿り着けるかどうかはわかんないけども(笑)せめて、自分の届く範囲と、ちょっとその外側にいる人達ぐらいまで、この場所を使って、少しでも居心地よくいられる場所が提供できたら良いなぁと思っていて。日本語でどう言って良いかわからないんですけど、シェアって言葉が非常に重要なんですよ。分け合うっていうね。
私:最近よく聞きますね。シェアスペースとかシェアカーとか。
谷合さん:持ってるものを皆で平等に分配し合う。もしそれができれば、計算上90億人ぐらいまでの人口は、地球上でつくれる食料でシェアできるんですよ。すべてを均等に平等分配したら誰一人として飢えさせることなく生きられるねってところから始まっていて。僕はね、せいぜい手近なとこ+αぐらいの世界ですけど、そういう協同分配みたいなものが居場所の中でも実現できると、たぶん皆ハッピーになる。
私:なるほど、シェアを大切に。
谷合さん:まぁ僕真っ白なんで、皆が幸せになってくれることが一番。
私:それが・・・すごい・・・!私たぶん真っ白になれって言われたら、相当の苦行を強いられると思うんですよね。
谷合さん:なんだろうな、自分が本当にやりたかった研究者生活は続けられなかったわけじゃないですか。研究室もないし、卒研生もいないし。
私:名刺もないし。
谷合さん:肩書きはないんだけど仕事だけたくさん降ってくるしね!(笑)でもそうすると、自分の手の届く範囲のもうちょっと外側まで関わってる人がいるんですよ。ホームページやっていて、メールで色んな問合せが来たりすると、ぜんぜん知らない人に情報発信したり、一面識もない人達から情報によって利益が得られたり喜ばれたり。そこで何かつながってご縁があって、広がっていくっていう経験をしていると、その人達もなんとか幸せにできたら良いなぁみたいな事を考えるんです。
私:そういった経験からの思いなんですね。
谷合さん:それで、今に至るみたいなね。皆が、それぞれのやり方やスタイルで自分らしくいられる心地のよい居場所になりたいと思っています。
私:私もまた利用させていただきます。・・・今の大学で研究室が作れないなら、出身校には戻れないんですか?
谷合さん:むしろ出身校には戻れない。大学教員になるには、必ず1回は外の飯を食わないと戻れない。で、基本的に外で飯食った人間は帰れない。
私:あれ、なんか矛盾してますよね・・・?(笑)
谷合さん:出しといてお前戻せないってどういうことだよ!(笑)意味が分からない!みたいな(笑)